パキスタンの技術で高品質レザージャケットを届ける。シャーフセイン・シャー氏が語る挑戦と、ブランド『俄(にわか)』に込めた想いとは?
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シャーフセイン・シャー(Shah Hussain Shah)
株式会社マテリアル 代表取締役。1993年6月8日、パキスタン生まれ。2歳のときに来日し、日本で育つ。格闘家の父・フセイン・シャー氏の影響で、自身も柔道家として活動。2016年リオデジャネイロ五輪、2020年東京五輪にパキスタン代表として出場し、国際的に活躍。アスリートとして活動する一方で、パキスタンのレザージャケットを日本へ輸入・販売するビジネスも展開。レザージャケットが日常的に着用されるパキスタンの文化を日本に伝え、ファッションを通じて両国の架け橋になることを目指している。
1. レザージャケットへの愛から始まったビジネス
島尻:
シャーさん、本日はよろしくお願いします!
アスリートとして既にご活躍されていますが、改めてシャーさんご自身のこと、そしてレザージャケットのビジネスを始めたきっかけについて、ぜひお聞かせください。
シャーフセイン・シャー(以下、シャー):
こちらこそ、よろしくお願いします!
私はパキスタンで生まれ、2歳から日本で育ちました。私にとってレザージャケットは子どもの頃から身近な存在でした。
というのも、パキスタンでは日常着としてカジュアルに着られているので、幼い頃から馴染みのあるアイテムだったんです。
島尻:
へぇ、それは意外ですね!日本だとレザージャケットは少し高級なイメージがあります。
シャー:
そうなんです。私にとってレザージャケットは、幼い頃から生活の一部でした。そして、成長するにつれて、レザーという素材の奥深さに魅了されました。
レザーは、人類の歴史とともに進化してきた素材で、極寒の地での防寒具、戦場での鎧、さらにはスポーツやファッションアイテムとして、多様な用途で使われてきました。
こんなにも長く愛され続ける天然素材は他にないんじゃないか、と思ったんです。
そんな時、パキスタンの従兄弟の旦那がレザージャケットの工場を経営していることを知りました。
その工場は世界中に製品を輸出しており、パキスタン国内でもトップクラスの評価を受けていました。
私はパキスタンで生まれ、日本で育ったこともあり、両国に強い愛着があります。
この二つの国をつなぐ架け橋になりたいという思いから、生産はパキスタンにこだわり、日本市場に向けて販売を始めました。
2. パキスタンのレザー産業の強み
島尻:
なるほど。ところで、パキスタンのレザー産業って、あまり日本では知られていない気がします。実際のところ、どんな特徴があるんですか?
シャー:
確かに、日本では「レザー=イタリア」というイメージが強いですよね。でも実は、「レザージャケットといえば韓国」というのをご存知でしょうか?
韓国のレザージャケット製造技術は、世界でもトップレベルなんです。
島尻:
えっ、韓国なんですか?それは知らなかったです。
シャー:
はい。そして、現在のパキスタンのレザージャケット産業には韓国の技術が深く関わっているんです。
パキスタンはもともとコットンや岩塩、大理石といった資源が豊富でしたが、レザー産業は未発達でした。
そこで、イギリスの植民地支配から独立した後、ものづくり大国として成長するために、イタリアからなめし技術を学び、まずは「ポロ」の靴や紳士靴の製造を始めました。
その後、韓国から技術者を招き、レザージャケットの製造技術を確立したのです。
現在、パキスタンは世界第3位のレザー輸出国であり、その品質は世界的に高く評価されています。
なぜパキスタンがこれほど多くのレザージャケットを生産・輸出できるのかというと、人口が世界5位でありながら、イスラム教の影響で羊や牛の消費量が非常に多いからです。
イスラム教では、動物は食べるためにのみ屠殺が許されており、動物への敬意が非常に強い文化があります。
そのため、革の扱いも丁寧で、品質の高いレザーが生産されており、イタリアから導入した高度ななめし技術によって、世界に誇るレザー製品が作られているのです。

パキスタンで作られたレザージャケットたち
3. レザージャケットの製造工程
島尻:
なるほど、興味深いですね!レザージャケットは、具体的にどんな工程で作られているのですか?
シャー:
レザー製品の品質を左右する最も重要な工程が「なめし」です。原皮はタンナー(革加工業者)によって加工され、なめしを施されることで「皮」から「革」へと生まれ変わります。
なめしには主に植物由来の「タンニンなめし」と、化学薬品を使う「クロムなめし」があります。
なめされた革が工場に届いた後、パターン(型紙)を基に、裁断 → 縫製 → 仕上げ(フィニッシング) → 検品 の工程を経て、ようやく製品が完成します。
レザージャケットの魅力は、素材選びによって大きく変わることです。ただ単に「羊は柔らかい」「牛は丈夫」といった違いだけでなく、革の厚みや加工の仕方によって、着心地や耐久性が大きく変わります。
たとえば、軽く着こなしたい場合は、羊革を0.7mmの厚さに加工し、きめ細かさと柔らかさを活かします。
ただし、その分耐久性がやや劣ります。一方で、防風性と耐久性を兼ね備えたレザージャケットを作る場合、山羊革を1.3mmの厚さで使用することで、適度な丈夫さと柔軟性を持たせることができます。
私たちは、こうした細かなニーズに応えながら、最適な革を選び抜いて製品を作っています。
品質を保つために最も重要なのは、ブランド様との密なコミュニケーションです。単にブランドの要望を満たすだけでなく、私たちの工場の強みを理解していただき、得意とする仕様を提案することで、より高品質な製品を作り上げています。
とくに、日本市場向けには、ヨーロッパとは異なるサイズ規格や、日本の消費者が重視する細部の仕上がりに対応するため、ボタンの付け方から糸のほつれに至るまで、細心の注意を払っています。
島尻:
なるほど、細部までこだわり抜かれているんですね。
シャー:
そうなんです。特に日本市場は品質に厳しいので、その要求に応えられるように日々改善を重ねています。

細部までこだわり抜かれ、高品質なレザージャケットが生まれている
4. 日本市場での販売戦略
島尻:
では、日本市場向けに展開を考えているブランド「俄(にわか)」について、詳しく聞かせてください。
シャー:
「俄(にわか)」は、本格的なレザージャケットをまだ手にしたことがない人に向けたブランドです。
「レザージャケットには興味があるけれど、どれを選べばいいかわからない」「高価な一着に踏み出す前に、まずは本物の良さを体験してみたい」――そんな方に向けて、手に取りやすい価格帯で、本格的なレザージャケットを提供します。
島尻:
具体的に、価格帯やデザインの特徴はどのようなものなのでしょうか?
シャー:
「俄(にわか)」は、レザージャケット入門者向けの本物志向かつ手の届きやすいブランドです。
縫製には一切の妥協をせず、世界に誇るパキスタンのレザーを使用しながらも、手に取りやすい価格帯(4万〜5万円)で展開します。
また、ブランドのシグネチャーデザインとして、一部のステッチを白くすることで、細部にまでこだわった縫製技術を視覚的に証明する仕様を採用しています。
島尻:
なるほど、品質を妥協せずに価格を抑えるというのは魅力的ですね。それでは、販売戦略についても聞かせてください。
シャー:
まずはクラウドファンディングを活用し、ブランドの認知を広げると同時に、市場の反応を確認するテストマーケティングを行います。
その後、ポップアップストアなどのリアルな場で実際に商品に触れてもらう機会を設けつつ、販売はオンラインをメインに展開していく予定です。

シャー氏のアトリエ
5. 海外生産・販売の苦労と成功談
島尻:
海外生産において、特に大変だったことは何でしょうか?
シャー:
最大の課題は「細部の仕上がり」へのこだわりでした。日本のブランドは、わずかな糸のほつれやミリ単位のズレすら見逃しません。
しかし、パキスタンの工場はヨーロッパのクライアント向けの製造が中心だったため、「手作業なら多少の誤差は許容される」という文化が根付いていました。
そのため、日本市場向けの製品を作り始めた当初は、品質基準の違いに苦戦しました。やり直しを繰り返し、大きな損失を出したこともあります。しかし、その度に工場の職人たちに指導を行い、品質管理レベルの向上に努めました。
島尻:
具体的にどのような改善を行ったのでしょうか?
シャー:
たとえば、まず作業環境の見直しから始めました。
作業テーブルの清掃を徹底することはもちろん、職人たちに手洗いの習慣を徹底させたり、使用する道具のメンテナンスをこまめに行うようにしました。道具が清潔で整備されていると、それだけでも仕上がりに違いが出ます。
次に、品質管理を強化しました。特に仕上げの工程では、検品基準をこれまで以上に細かく設定し、日本の基準に合わせた厳格なチェックを導入しました。
以前は多少のズレを許容する文化がありましたが、日本の消費者は細部の精度を非常に重視するため、それに適応する体制を整えました。
また、縫製技術の向上にも力を入れました。ミリ単位の調整ができる職人を育成し、日本市場が求める高いクオリティに対応できるようにしたんです。
こうした取り組みを積み重ねたことで、現在では日本市場向けの製品も安定して高品質で提供できるようになりました。
島尻:
なるほど。一つひとつの改善を積み重ねることで、日本市場に適応したクオリティを実現してきたんですね。物流面で苦労した点はありましたか?
シャー:
パキスタンから日本への輸送には船便で約1ヶ月半かかります。
その間、湿気に弱いレザージャケットを保護するため、防湿効果のある特殊な梱包材を使用し、輸送中に温度や湿度の管理ができるルートを選定しました。
さらに、保管倉庫の環境を徹底管理し、カビや変色を防止する仕組みを整えています。
6. レザージャケットの魅力と今後の展望
島尻:
ここまでの話を聞いて、レザージャケットの魅力がますます気になりました。シャーさんにとって、レザージャケットの一番の魅力とは何でしょうか?
シャー:
レザーは、長い歴史の中で常に人々に愛されてきた素材です。
経年変化の美しさ、耐久性、そして天然素材ならではのサステナビリティ――これらは、今の時代にこそ再評価されるべき価値だと思っています。
しかし、現代ではアパレル業界全体が大きく変わり、オンライン販売の普及によって、ワンクリックで商品が手に入る時代になりました。
その結果、「本物の価値」が見落とされがちになっていると感じます。
私は、そんな時代だからこそ、「本物に勝る高級なし」という理念を掲げ、にわか層(初心者層)に向けて本物のレザージャケットを届けたいと考えています。
そして、レザージャケットの魅力に気づいた方が、いずれは老舗ブランドやハイブランドへとステップアップしていく――そんな流れを作ることが、私の目指すビジョンです。
7. WardRove読者へのメッセージ
島尻:では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
シャー:
レザージャケットに少しでも興味があるなら、ぜひ一度本物を手に取ってみてください。
長く愛せる一着との出会いが、あなたのスタイルを変えるかもしれません!
島尻:
本日はありがとうございました!
「俄(にわか)」の展開、楽しみにしています!
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